カーラとアリシャ・中編【2023/8/24加筆】
学者アリシャ
アリシャ・シンデラル、比較文化論を研究する学者……
学者としてはまだ駆け出しで、珍妙な論文を書くこと、コスプレが好きであることでそこそこ名を馳せています。
彼女の「珍妙な」論文の中でも特に注目を集めているのが、「姉」としている人物の民族の文化について論じた論文です。
実は……アリシャ・シンデラルは、異民族の女性とおじとの間に生まれた少女、カーラを「姉」とするあのアリシャです。
「次の聖地詣でが1ヵ月後に……」
あれから20年もの月日が過ぎていました。
それからカーラはどうなったのか?後で説明しましょう。
さて、私は……中規模のネットニュースサイトの契約記者です。
そのネットニュースサイトの運営会社とアリシャの研究所がお付き合いがあり、アリシャとも若干の交流がありました。
ある日「カーラの民族についてインタビューしたい」とアリシャに話をしたら
「そのインタビューには特別な衣服で臨みたい」という答えをいただきました。
その特別な衣服とは、カーラがかつて身に着けていた民族衣装のひとつのレプリカ-アリシャが極秘に手に入れられたカーラの民族の民族衣装は、もしそれが存在するならば、実はアリシャが着るには小さかったので……-でした。
民族を受け継ぐアリシャ
さて、アリシャのインタビューの日……
アリシャはインタビューを始めるにあたってこう言いました。
「私自身は顔を撮られることについて何の問題もありません。でも、その少数民族のおきての厳しさを感じてもらうために、インタビューの間民族衣装の伝統的なヴェールで顔を覆わせてください。また、私の姿を撮影するときは顔を正面からアップでとらないなど、いくつかの指示に従ってください。」
インタビューの前半は和やかな雰囲気の中で行われ、カーラの民族とは関係ない研究所内の話題に終始ました。「私自身は顔をとられることについて何の問題もありません」とアリシャが言ったように、研究中に撮影された写真はぼかしやモザイクなく紹介されました。
インタビューの中盤、カーラの民族の話題になると、アリシャはヴェールの上からでもわかるように表情を変えました。
私「カーラさんの民族について当時の記録は何かないのですか?」
アリシャ「実は……姉カーラの民族は『記録を残す』ことをおきてで厳しく禁じていたので、本当に『こっそりと』記録、保管できたもの以外は一切記録がありません。論文の内容も、99%は私の記憶や思い出に基づくものです。」
私「今召している民族衣装も『こっそりと』保管できたもののひとつですか?」
アリシャ「あまりまじまじと撮らないでください!おきてに反します!」
私「えっ?」
アリシャ「冗談です(笑。これはレプリカなのでかろうじておきてに従います。ただし、民族衣装のレプリカを作ることさえ厳密にはおきてに触れます。」
私「そこまで厳しいんだ」
アリシャ「はい。民族そのものが滅んだのでおきても消滅しましたが、おきてそのものは非常に厳しかったと記憶しています。」
インタビューはアリシャが答えた「本当に『こっそりと』記録、保管できたもの」に及びました。幼少時にカーラからもらった民族衣装の一部とヴェール、とある事情から保管できた民族衣装一式、そして1枚の写真です。
私「手前がアリシャさんで奥がカーラさんですか?」
アリシャ「はい。父が使用人を説得し、説得し、説得し、やっと撮らせてもらった一枚です。ネガなども父と使用人との約束で破棄したので本当にこれだけです。もしかしたらここまで残らなかったかもしれません。」
私「申し上げづらいのですが……最後の」
アリシャ「はい。姉カーラは、少数民族間の紛争に巻き込まれて……死にました。」
過酷な運命
アリシャは父親から聞いたというカーラの最後をこう語りました……
アリシャがカーラからこっそりヴェールをもらった翌年……
その年の聖地詣ででカーラが聖地についた日、「最高指導者」は聖地が戦場になると予言し、民族の集団自決を行うと民に通告しました。
カーラとその家族は旅装束を解く余裕もなく集団自決は実行されました。
民家はすべて壊され、民と財宝は宮殿に集められ、宮殿に火がつけられるそのとき、カーラの父親が宮殿に現れ、カーラだけを救い出しました。
父親は片言の「カーラがわかる言葉」でカーラに生きてアリシャに再会するよう説得しましたが、カーラはすっぽりと顔を覆っていたヴェールを脱いで父親にわたすと、片手で顔を覆いながら、もう片手で父親の銃の銃口を胸にあて「ここで死ぬ」と父親に伝えました。
父親は泣く泣くカーラを銃殺し、カーラの民族衣装を脱がせると、その場でカーラを荼毘に付しました。
カーラの父親は、カーラの民族衣装をアリシャの父親に託すと、一部始終を話した後また戦場へ向かいました……
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