カーラとアリシャ・前編【2023/8/24加筆】
二人の少女
ここに二人の少女を撮った一枚の写真があります。
奥のベール(ヴェール)で顔をすっぽり覆った少女はカーラ、手前の少女はアリシャと紹介されています……。
カーラとアリシャはひょんなことから姉妹として暮らすことになった仲良しです。
「姉」カーラは7歳、「妹」アリシャは4歳。2年前から姉妹として暮らしています。
実は、カーラとアリシャは普通の姉妹と違うところがいくつもあります。
「妹」アリシャは幼児舎に通いますが、「姉」カーラは母親とその使用人だけに幼児教育を受けます。
「妹」アリシャは会う人すべてと自由に話すことが許されますが、「姉」カーラは母親、使用人としか話すことが許されません。
そして、妹であるアリシャと話すのに母親の許しがいります。
何よりの違いは着ることが許される服です。
「妹」アリシャは女の子らしいかわいい服を何でも着ることが許されますが、「姉」カーラは母親の一族の伝統的な民族衣装しか着ることができません。特に母親と使用人以外と会うときは伝統的なヴェールで顔を覆って隠さなければならないのです。
実は「妹」アリシャはまだ、「姉」カーラの素顔を見たことがないのです。
姉妹の生い立ち
このように暮らし方の違う二人が姉妹になったのにはこんな理由があります。
カーラとアリシャは、実は父親が兄弟同士という、従姉妹なのです。
カーラの父親が弟で、アリシャの父親が兄です。
アリシャの父親は国連のスタッフで、カーラの父親は傭兵でした。
カーラの父親はある国で少数民族を守るための戦争に参加していました。
カーラの父親はその戦争で少数民族の娘と恋に落ち、一女=カーラを設けました。
このことは少数民族で「少数民族のおきてを脅かす行為」として大問題となりましたが、兄であるアリシャの父親が交渉して次のような形で解決することになりました。
娘とカーラはアリシャの父親の元で過ごす。ただし、民族のおきてを厳格に守りながら。カーラの父親は兵士として少数民族の警護を続ける。
このようにして暮らし方のまったく違う二人が姉妹になりました。
姉妹の日常
カーラとアリシャは「仲良し」と書きましたが、お互いが触れ合える時間は一日のうち、お互いが夕食をとった後の数十分しかありません。
実はカーラとアリシャはお互いの言葉がほとんどわかりません。なので、このようにしてお互い話をします。
まず、カーラが通訳となる使用人に話します。
そして使用人が母親にその話をアリシャに伝えていいか訪ねます。
伝えてよければ使用人がアリシャがわかる言葉でアリシャに伝えますが、よくなければカーラにその旨を伝えます。
アリシャのほうはというと、アリシャは一方的に話します。
そして使用人が母親にその話をカーラに伝えていいか訪ねます。
伝えてよければ使用人がカーラがわかる言葉でカーラに伝えますが、よくなければアリシャにその旨を伝えます。
お互いが出会った当時は一言、二言を交わすだけで精一杯でしたが、2年たった今ではお互いの姿を見ただけで気持ちが十分に伝わるまでに仲が深まりました。
運命の日へ
さて、アリシャがカーラに関して楽しみにしていることのひとつに、カーラの民族で冬至前後に行われる聖地詣でがあります。
カーラの民族ではこの聖地詣でを境にすべての民族衣装を新しくします。
その新しい民族衣装を見るのも楽しみの一つですが、実はカーラが使用人伝いでこっそり持ってくる民族衣装の一部-民族のおきてでは古い民族衣装は聖地詣での際に処分しなければならないのです……-が一番の楽しみです。
特に昨年、2回目の聖地詣での後にはカーラが1年間愛用し続けたヴェールがこっそりアリシャに渡されたのです。
アリシャはそのとき興奮しましたが、おきてに背くことと知り、その後は興奮を胸に秘めました。
次の聖地詣でが1ヵ月後に迫っています。アリシャはカーラから何をこっそり手渡されるか、今から楽しみでなりません……
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