カーラとアリシャ・後編
遺されたもの
アリシャが姉、カーラの最期について語ったのち、一時的に重苦しい空気に包まれたものの……
インタビュー後半、カーラの民族の民族衣装の話題になると、その空気は一変しました。
何より、アリシャはテーブルの前に「こっそりと」保管できた衣装を並べながら話しました。その最中、ヴェールの上からでもわかるように目をきらきらさせていました。
アリシャ「これは姉カーラからこっそりもらったヴェールです。もうひとつは、姉カーラが最後に身に着けていたヴェールです。姉カーラが最後に身に着けていた衣服は別になっていて、これです。この血痕は、姉が着ていたと言う証拠です。ヴェールのレースは顔の形に合わせて編むので同じものは2つできません。よく見るとレースの形が微妙に違うのがわかると思います。」
私「ヴェールのレースは専属の編み手がいるのですか?」
記録が許されなくても
アリシャ「いいえ、姉カーラの民族の女性は、生まれてから6回目の冬至を迎えると手芸や裁縫を習う習慣があったので、ある程度の歳になれば、女性は誰でも自分が被るヴェールのレースを編めるようになります。自分の好きな模様を編む女性もいたので、『記録を残さない』姉カーラの民族にとっては、民族衣装は唯一例外的な記録媒体だったともいえます。」
私「アリシャさんが身に着けているヴェールは民族衣装のものと違うように見えますが?」
アリシャ「横から撮ってください(怒。このヴェールは市販の毛糸を用いて私が再現したので姉カーラが身につけていたのとは違います。」
私「失礼!」
アリシャ「これらのヴェールは冬至を迎えるごとに新しいものが作られ、古いものは燃やされてきました。衣服も同じです。設計図を残さないので、毎年少しづつ変化していったようです。民族の保護に携わっていた父によると、保護に携わっていた7年間にずいぶんデザインが変わったそうです。」
私「一番最初にもらえた物は拝見できますか?」
アリシャ「これです。姉カーラと出会ったときにしていたと言う右手のガントレットです。ただ1回、姉と握手することができたので思い出の品です。最初、異民族が触れたと言うことで直後に処分されるかも知れないといわれたのですが、後に姉カーラが母と使用人を説得して残してくれたようです。」
私「このガントレットも刺繍などが微妙に違うのですね。」
アリシャ「去年と同じものはなるべく作らないと言うおきてがあるので、そうですね。」
伝統を残すために
私「仮にこの民族のおきてを引き継がなければならないとしたら、引き継ぎますか?」
アリシャ「はい、よろこんで!」
私「かなり窮屈な生活になると思いますが?」
アリシャ「おきてなどは記録を残すか残さないかを含め、現代社会に沿ったものに変えなければならないかもしれません。ただ、この民族衣装を普段着にしなければならないならよろこんで毎日着ます。」
私「この民族衣装が痛く気に入ったようですね。」
アリシャ「個人的にデザインや考え方が好き、と言うのもありますけど、所長が『若い女性なんだからどんどん顔を出して行け』と言うわりに、私それほど美人じゃないんですよね(笑」
私「なるほど(笑」
アリシャ「本当に記録を残すことを忌み嫌う民族だったので……運よく残せた記録はこの4点だけです。姉カーラは記録を残さない少数民族と現在社会の狭間で葛藤していたと思います。」
私「最後に、記録を残さない民族について、あえて記録を残そうと思いついたきっかけは何でしょう?」
アリシャ「『アジア・アフリカ民族衣装の日』です。姉カーラの民族は、厳密にはアジア、アフリカの民族ではありませんが、それ以外の民族の民族衣装もこの日の制定を機に見直されるべきだと考えたからです。」
私「本日はありがとうございました。」
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